穀雨|こくう|葭始生|あしはじめてしょうず|2024年

歳時記
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穀雨 こくう


19日より二十四節気は「清明」から春季最後の節気「穀雨こくう)」と変わり、次節より「立夏」と夏に入っていきます。そして七十二候は「葭始生あしはじめてしょうず)」と移ります。

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穀雨(こくう)

春の雨が降り注ぎ米や麦、粟、稗、黍(きび)、豆など数多くの作物が潤う雨が降る頃という意味です。そしてこの穀雨が終わる頃(2024年は5月1日)には八十八夜を迎えます。

穀雨 こくう

度々登場する「暦便覧」ですが、太玄斎こと常陸の国の宍戸藩(現在の茨城県笠間市平町に存在した藩)第5代藩主松平頼救が天明7年に世に送り出した暦の解説書で、その「暦便覧」には穀雨について「春雨降りて百穀生化すればなり」と記されています。

この季節に降る雨を百穀春雨または春雨百穀といって穀物の生育には欠かせないものです。
そのためこの雨を契機として種まきに最適な時期の目安とされてきました。

春雨

この時期に降る春雨は作物に恵みの雨となり「穀雨」と呼ばれましたが、他にも様々な呼び名をつけていました。
どの雨の呼び名も田畑を肥沃にし、農作物や草木をうるおし育てるほどよい雨を表しています。

春雨

甘雨(かんう)

植物を潤す雨という意味ですが、甘いという言葉を使うところに、お釈迦様の生誕を祝う花まつりで誕生仏に産湯としておかけする甘茶を連想してしまうのは私だけでしょうか。

催花雨(さいかう)

さぁ春ですよ!と花達に開花を促している雨。ちなみにツツジ、ボケやシャクナゲなど鮮やかな紅色の花に降り注ぐため「紅の雨」と言うこともあります。

春霖(しゅんりん)

春の長雨のことを言います。また「沃霖(よくりん)」と呼ぶ場合もあります。

瑞雨(ずいう)

穀物の生育を促す雨のことで、穀雨と同じ意味です。この「瑞」という漢字は天が善政に感じてくだす、めでたい印。またはめでたいことそのものを指しています。さらに「沃雨(よくう)」「膏雨(こうう)」などの呼び方もあります。

菜種梅雨(なたねづゆ)

菜の花が咲くころにしとしとと降る雨を言いますが、昨今では地球温暖化の影響かこの時期より少し早く菜の花は咲いてしまいます。

迎え梅雨(むかえづゆ)

まだ本格的な梅雨の時期より前ですが、まるで梅雨のような天候を指して言います。沖縄ではゴールデンウイーク後半には前線が停滞して、正しく迎え梅雨の天気となりそうです。

今更ながら日本語の表現の多様さ豊かさには頭が下がります。
しかしながら、現代ではだいぶその日本語が乱れているように感じるのは私だけでしょうか。
時代とともにその言語も変遷していくのもやむを得ないことかもしれませんが、そんな中でも美しい日本語は大切にしていきたいと思います。

葭始生(あしはじめてしょうず)

穀雨 こくう 葭始生 あしはじめてしょうず

4月19日に七十二候は「穀雨」の初候「葭始生あしはじめてしょうず)」と変わります。
気温も徐々に上がり始め様々な植物が活き活きとし始めます。
それは野山に限らず身近な水辺にもその様が見られます。
神話にも書かれている日本の呼称「豊葦原の瑞穂の国(とよあしはらみずほのくに)」は、葦が生い茂っていることが由来だそうです。

その水辺に目を向けると葭の新鮮な緑の若芽が芽吹いているのが見られます。
葭はイネ科の多年草で川や沼、湖の水辺や湿地などに群生し、夏には茎の高さは2~3メートルにまで成長します。

葭の芽吹き

葭は「」「」とも書きますが、その茎は竹などと同じように中が空洞で柔軟性があり、丈夫な割には軽量ということもあり茅葺の屋根材としても利用されています。
また古くから葦を紙や生薬などに活用してきたそうです。

茅葺き

また葭を使った簾は「葦簀よしず)」と呼ばれ皆さんにもお馴染みのアイテムでしょう。
その風情はビニール製の簾など足元にも及ばないと思います。

よしず

「あし」と「よし」

さて先ほど葭で出来た簾を「葦簀(よしず)」と書きましたが、もちろん素材は「葭」です。
では「あし」と「よし」は別物でしょうか。
いえいえ、まったく同じものです。

日本人は古来より言霊を大切にする民族ですので、その「言霊思想」の中に「忌み言葉」という考え方があります。
例えば梨を「有りの実」、披露宴や祝宴の終わりを「お開き」さらには「すり鉢」を「あたり鉢」など縁起が悪い言葉を使うことを避ける風習があります。

この葭(あし)も「悪し」に通じることから「良し・善し」と言い換えていました。

しかし、関西地方では「お金」を意味する「お足(あ)し」に通じることから、根強く「アシ」という言い方も残っているそうです。

結詞

依然として解決の道筋すら見えないウクライナ情勢、そして緊迫度が増してきているように感じられる中東情勢、国内に目を向ければ円安などの影響による物価高騰など先行きの不透明感がただ追い続けている昨今ですが、こんな時期だからこそ言霊思想に現れているような日本人の「穏やかで豊かな心根」を暦の中から感じながら日々過ごしていきたいものです。
近くの公園に行くだけでもとても気持ちよく、五感で晩春を感じることで陰鬱な空気を払い、気分転換ができると思います。

また葦は何度倒れても、折れることがなく真っ直ぐ上を向いて成長を続けます。
現在のような社会情勢であっても「葦」を見習って、私たちも柔軟に折れることなく前を向いて行けたらと思います。

沖縄ではゴールデンウィークが終わる頃には例年ですと「梅雨入り」。水がめの貯水率は幾分改善はしつつあるものの、未だ平年より少ない状態が続いていて、恵みの雨も期待しつつも、この時期の貴重な爽やかな日は有意義に使いたいと思います。

水辺の葭
霜止出苗 しもやみてなえいずる

このような状況下でも暦は穀雨の次候「霜止出苗(しもやみてなえいづる)」と粛々と進んでいきます。

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