霎時施|こさめときどきふる|2024年|しぐれ煮|七十二候

歳時記
霜降 霎時施 こさめときどきふる

旧暦(2024年は11月1日より)では10月は、和風の月名「神無月」の別名の中にも「時雨月」というものもあります。
朝晩の冷え込みとともに本格的な秋の到来を感じられる季節となって七十二候も28日より「霎時施(こさめときどきふる)」の候となります。時々小雨が降り、「一雨一度」と言われるように、一雨ごとに気温が下がってきます。この一雨一雨が、まるで私たち人間や動物たちに「さぁ、冬支度を始めなさい」と告げているようです。

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霎時施(こさめときどきふる)

霜降 霎時施 こさめときどきふる

ぱらぱらと通り雨のように降り、じきに止んでしまうような小雨が思いがけず降っては止む頃という意味ですが、この時期、大陸からの冷たい寒気が日本海や東シナ海との温度差によって暖められ、それによって次々と細かい対流雲が発生し晴れたり曇ったり時には雨または雪を降らせたりします。

2024年の冬について気象庁は、「11月以降平年並み」としながらも、この夏、記録的な高さとなった日本海の海面水温が、冬も平年に比べて高い状況が続くと予想され、また偏西風の蛇行も影響して一時的に寒気が流れ込みと雪雲(または雨雲)が発達しやすくなるとしています。


この時期は野原一面をおおう露も「露時雨」となり、やがて霜となる頃でもあります。

このようにパラパラと通り雨のように雨が降ったり、かと思えば傘を広げる間もなく青空が顔を出したりとこんな天気を「時雨(しぐれ)・霎(しぐれ)」と言います。

「霎」という漢字は、訓読みでは「こさめ(小雨)」「しば(し)」、音読みでは「ショウ」「ソウ」と読まれ、ここでいう「こさめ」は「時雨(しぐれ)」の意味合いです。
因みに、「霎々(しょうしょう)」とは通り雨がぱらぱらと降る音、または風が颯々(さつさつ)と吹く音を表します。

初時雨」という言葉がありますが、野山も人も冬支度を始めだすという自然のサインです。

時雨は、俳句では冬の季語として扱われます。時雨が降る時間によって「朝時雨、夕時雨、小夜時雨(さよしぐれ)」、ひとところに降る時雨を「片時雨」、北から降る「北時雨」など、時雨にはその時々の様子をあらわすさまざまな言葉が広がっています
。さらには時雨の降りそうな空模様のことを「時雨心地(しぐれごごち)」といって、ふいに涙の出そうになる気持ちのことを表現するのにもよく使われています。

あの有名な松尾芭蕉

旅人と我名よばれん初しぐれ
句意:今日からは自分は人から「旅人」と呼ばれて行こう。時雨の「空定めなきけしき」が「身は風葉の行く末なき心地して」を呼びおこして、「旅人」の感慨を表しています。

初しぐれ猿も小蓑をほしげなり
句意:冷たさ一入(ひとしお)の初時雨に蓑笠を着けて山道を行くと、しとどに時雨にぬれた猿が、俺も小蓑が欲しいよと言いたげに、道端で寒そうにふるえています。

と詠んでいます。

女心と秋の空

余談ですが、そんな天気から即座に思い浮かぶ言葉に「女心と秋の空」があります。
実はこの「女心と秋の空」の女心の部分は「男心と秋の空」だったのをご存じでしょうか。

秋の空

江戸時代ころまでは、男心は秋の空のように変わりやすい、つまり女性に対する愛情も移ろいやすく浮気の多さを表していたものだそうです。当時は女性が浮気することに対しては非常に厳しく罰せられたのに対して、男性の浮気に対しては比較的寛容だったので、浮気な男性、女性に気が多い男性には気をつけなさい!という戒めの意味が込められていました。
それが明治から大正時代になると徐々に女性の地位も向上し強くなってきつつありましたので、それを境に感情の起伏が激しく気持ちが変わりやすいことなどから「女心」に変遷していったようです。

しぐれ煮

はまぐりのしぐれ煮

冒頭にも書きましたが、天気ことわざに「一雨一度」というのがあります。
秋は雨が降るごとに一度ずつ気温が下がるという意味なのですが、雨の後つまり低気圧が通過した後は大陸の高気圧つまり寒気が張り出してきて雨の前より少し気温が下がります。この繰り返しで秋が深まり紅葉も進み、木々の彩りが鮮やかになっていきます。
そんな冷え込みが増した夜の晩酌、日本酒の熱燗の「肴」に佃煮にショウガを加えた料理の「しぐれ煮」はいかがでしょうか。

今では「あさりのしぐれ煮」などハマグリ以外の貝を使ったものや、牛肉や豚肉を材料にした「牛肉・豚肉のしぐれ煮」など、生姜入りの佃煮全般を言うようになりましたが、元は、桑名の名産として有名になった「時雨蛤(しぐれはまぐり)」を言いました。

この「しぐれ煮」、名前の由来は諸説ありますが、主だったものでは

  1. しぐれ煮につかう蛤(ハマグリ)が最もおいしくなる時期だから。
  2. むき身をたまり醤油に入れて短時間煎るという調理法が、降ってはすぐにやむ時雨に似ていることから。
  3. いろいろな風味が口の中を通り過ぎることから一時的に降る「時雨」に喩えられた。
はまぐり

などだそうです。

巡る月日はいつも速足と感じる歳ともなると、澄んだ秋の夜空に浮かぶ美しい月を心穏やかに待ちながら、しぐれ煮を肴に、熱燗をキューっと一杯、そんな食生活から秋を楽しむのもまた一興かと思います。
煌々と冴える月の姿を愛でるひとときを、晩秋の夜長にゆったりと愉しんでみてはいかがでしょうか。

結詞

さて、もみじは「もみず」が語源で、霜や雨などの冷たさに揉み出されるように色づくから、という意味だといいます。
この時季、時雨が降る度ごとに、紅葉はだんだんと色濃く染められていき、彩りが深まっていきます。
時雨は「八入(やしお)の雨」という呼び方もあって、これは染色する際、染料を一度だけ浸すことを「一入(ひとしお)」といい、何度も浸して濃く染めあげることを「八入(やしお)」というところから来ているそうです。
一雨ごとに美しく色づいていく紅葉ですが、一番鮮やかなシーズンはすぐ近くまで来ています。
季節が確実に冬へと向かって進んで行くのも静かに感じとりながら過ごしていきたいと思っています。

紅葉情報をチェックしながら、遠出をするにしても、お馴染みの近場で楽しむにしても、この時期だけの秋の時雨に濡れ、錦色に染まった自然の中に秋色の装いでお出かけになってみてはいかがでしょうか。

楓蔦黄 もみじつたきばむ 大興善寺

朝晩の冷え込みを実感できるこの頃、暦は霜降の末候「楓蔦黄(もみじつたきばむ)」と移っていきます。

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