霜降(そうこう)
つい最近までは厳しい残暑で季節外れの猛暑日を記録していましたが、突然、寒波が流れ込み朝晩だいぶ空気がヒンヤリしてきました。
二十四節気では23日より「霜降(そうこう)」となります。
秋が一段と深まり、白露の頃には早朝に草木を湿らす露が霜へと変わり朝霜が見られる頃です。
朝晩の冷え込みが厳しくなり、「晩秋」という言葉を少しずつ実感できます。
初霜の知らせが聞かれるのも大体このころで、この冷え込みによって山は紅葉で彩り始ます。
コートや暖房器具の準備など、この頃からそろそろ暖房器具など冬支度を始めてもいいかもしれません。
セーターやコート、ダウンなどを、箪笥から引き出して、寒さに備えている方もおられることでしょう。
また草木や農作物に降りると枯らしてしまうこともあるので、農業はもちろんのこと、花や植物の栽培にも霜は要注意ですので、予想最低気温が3~4℃とあれば、霜対策をしておいた方がいいようです。
江戸時代、太玄斎により著わされた暦便覧には「陰寒の気に合って、霜むすび凝らんとすれば也」とあります。
旧暦9月は和月名では長月といわれますが、稲の刈り取り時期から「小田刈月(おだかりづき)」、菊が咲き始めるため「菊月」、そして木々の葉は色をかえ染まり出すことから「色取月」と様々な呼び名があります。
いずれも自然とともに暮らしてきた昔の人々の感性から名付けられたものです。
気象庁では、早霜や晩霜によって、農作物被害が発生するおそれのある際、「霜注意報」を発表したり、日本気象協会では、未明から明け方にかけて「霜が降りる」可能性を数値で表した指数、「霜指数」を発表していますが、概ね気象台で発表される最低気温が3℃以下に冷え込むと周辺の地表温度が0℃を下回ると言われていて、このような気温になると今までは露となっていた水分が凍り付き霜となるようです。
霜始降(しもはじめてふる)
七十二候は「霜降」の初候「霜始降(しもはじめてふる)」に変わり、北の方からだんだんと初霜が降り始める頃となってきます。。
氷の結晶である、霜がはじめて降りる頃。昔は、朝に外を見たとき、庭や道沿いが霜で真っ白になっていることから、実際は空気中の水分が凍り付いたものですが、雨や雪のように空から降ってくると思われていました。そのため、霜は「降る」といいます。
またこの時期の日本本土の山里の風物詩として思い浮かぶのは茅葺の農家の庭先に鮮やかな色で実った「柿」ではないでしょうか。まさしく日本の秋の原風景といった趣が感じられます。
深さと高さををちょっと加えたようなこの頃の青空は、次第に葉を落としていく柿をくっきりと描き出します。
柿色ともいわれる柿の実の濃いオレンジ色は、寒さを感じる季節に生き生きとした明るさを発しています。
その色は赤でもなく、橙色でもなく、黄色でもない、正しく「柿色」です。
この「柿色」、細かく言うと柿の果実に由来する色と柿の渋で染められた時の色の二つの系統に分かれます。
そしてさらには柿の果実に由来した系統の中にも、一般的に柿色という鮮やかで濃い橙色と熟しきった柿の果実の色の赤身の濃い「照柿色」に分けられます。
さらに、柿渋で染められた時に発色した際の色味「柿渋色」や歌舞伎の成田屋が着用した衣装の中から「団十郎茶」と呼ばれた茶色がかった色目の物もあります。
さて、柿は人それぞれ食べ頃が違うのも面白い果物です。
熟す頃合いで美味しさや味わいもそれぞれ変わります。
また干し柿にも枯露柿のように粉をふいてカチッとした歯ごたえのもの、あんぽ柿のやわらかい口あたりなど、さまざまな美味しさがある柿の楽しさを感じます。
柿は美味しさだけではありません。
木はその堅さから家具をはじめ多くの用材として使われています。
ゴルフのドライバーなど現在はメタルが主流ですが、ウッドクラブのヘッドに使われるパーシモンといって柿の木であったことはご存じでしょうか。
また、柿につきものの渋は防腐剤として紙、木や麻に使われてきました。
そして、この渋を抜けば甘柿になるという素晴らしい性質も持っています。
このことから渋柿が簡単に甘柿になるため「変わりやすい性格」「融通の利く性質」を「柿根性」というそうです。
ちなみに「柿根性」の反対の「しつこくて、変えがたい性質」は、酸っぱさを失わない「梅根性」といいます。
季節は徐々に「紅葉便り」も届き始める頃ですが、その紅葉に彩られた山々を「山装う」と表現し秋の季語ともなっています。
ちなみに春に花が咲き鳥が鳴く山は「山笑う」、青葉茂る夏山は「山滴る」、そして冬山の静けさを「山眠る」と擬人的に表現しています。
これは中国の画家の郭煕の画論「臥遊録」の中にある漢詩に「春山淡治にして笑うが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄にして装うが如く、冬山惨淡として眠るが如く」の一節に由来しています。
ところで、亜熱帯気候のため「四季」が感じにくいと言われている「沖縄」では柿もなく紅葉もなく「秋」はないと思われている方も多いと思われますが、沖縄にも紅葉する木があります。
それは「ハゼ・櫨」の木です。九州各地にも「ハゼ並木」として名所となっているところもたくさんありますが、沖縄では「ケラマブルー」でも有名な慶良間諸島の座間味島などでは10月の終わり頃からだんだんと赤く色づく姿を眺めることができます。
その櫨は安土桃山時代に中国南部からロウソクの蝋を採取するためにその種子を輸入し栽培したのが始まりと言われています。
江戸時代中期には中国から琉球を経由して盛んに輸入されるようになり薩摩でも本格的に栽培されました。
結詞
「実りの秋」「食欲の秋」を象徴するかのように、柿、栗、梨、ぶどう、林檎とそしてキノコや新米など秋は美味しいものがたくさんあります。秋の実りをたっぷりといただき、暑い夏で疲れた体を養生しながら元気をつけて寒さに向かいましょう。
晴れれば青空はどこまでも天高く澄みわたり胸いっぱい爽やかな空気を吸い込んで穏やかな光の中、行楽にも出かけたくなります。
これから徐々に天気も落ち着き紅葉狩りや梨狩りや葡萄狩りなどお出かけの機会も増えてくるこの時期、お出かけの装いに「柿色」取り入れてみたらいかがでしょうか。
また静かに降りそそぐ雨音に耳を傾けながらに栗をむき、、栗ごはんにでも、また「菊月」に因んで菊の花のお吸い物や菊酒を楽しんだり、今の季節らしい味わいのある時間を過ごしたいものです。
これから日一日と冬の足跡が聞こえてきます。暦は霜降の次候、霎時施(こさめときどきふる)と進んでいきます。
コメント