月も替わり、体感的にも「秋」が感じられるようになってきました。
2024年は3日から七十二候が秋分の末候「水始涸(みずはじめてかるる)」となります。
水始涸(みずはじめてかるる)
七十二候も3日より「水始涸(みずはじめてかるる)」となります。
「涸」という漢字は、水が干上がる・枯れる・尽きてなくなることを意味しています。
日本では季節を農事と結びついて解釈することが多いので、田んぼの水を抜き、稲刈りの準備をする頃と解する方が一般的で自然な感じがします。
一方、七十二候が考案された古代中国では、『日本書紀』にも取り上げられている『淮南子(えなんじ)』という前漢時代の古典の中に、「陰気益々強くなり水涸る」と「水始涸」の由来となった文章が残っていて、夏の陽気が衰退し、秋分の頃に水も涸れ始める情景を記していることから、井戸水などの水源が涸れ始める頃という説もあります。
つい最近まで「令和の米騒動」とまで言われた「食用米」が店頭から消えるという場面に遭遇しましたが、新米の収穫・出荷と共に価格は別として、供給は平常に戻りつつあるようです。
さて、「米」という漢字は、八十八という字の組合せでできており、昔から米作りには八十八の手間がかかると言われています。
また、田んぼ一面黄金色に実った稲穂が風に揺れるさまは、海の波に喩えられ、「穂波」「稲の波」「稲穂波」などと呼ばれ、秋の季語にもなっています。
その実った稲は、神様に「初穂」を捧げ、収穫の感謝を祈念する行事や秋祭りが行われる時季を迎えます。宮中でも17日に「神嘗祭」が行われ、朝、天皇陛下が賢所に新穀を供え、天照大神がおられる伊勢の神宮をご遙拝になります。
私たちもお米の一粒一粒は農家の方々の多くの苦労を経て生産されていますので、今年も農家の皆さんのご苦労に感謝しながらありがたくいただきたいものです。
そこでお米作りの手間をご紹介しておきます。
お米作りの手間
先ほども書きましたが、お米という漢字の由来は八十八の手間からできていることに由来しています。
実際、88の手間が掛かるかどうかはさておいて、その実態はあまり知られていないのではないでしょうか。
そこで一般的なお米の作り方を季節に沿ってご紹介いたします。
春
長い冬が終わり桜のつぼみが赤く染まるころ、お米づくりが始まります。
田起こし
冬の間眠っていた硬くなった田んぼの土を掘り起こし、空気をませ合わせることで柔らかい土にします。その際、肥料も混ぜ合わせて栄養がたっぷり入った田んぼを作る作業です。
畦(あぜ)塗り
もぐらやオケラが開けた穴を塞いで田んぼの水が外に漏れるのを防ぎます。
代(しろ)かき
水を入れて田んぼを均一にし、土をさらに柔らかくして苗の根が張りやすいようにする作業です。
種・苗の準備
多くの米農家さんは基本的に種を直接田んぼに播く(直播)のではなく、育苗箱など別の場所で種から苗まで育ててから田んぼに植えつけます。
そのためにまず、良い種もみを選別し、種もみには病原菌がついている可能性があるので、薬液やお湯に浸けて消毒します。
田植え
昔はみんなで田んぼに入り、手で植えていた作業(現在でも機械が入らないような狭い棚田のような場所では続いています)でしたが、現在では田植え機で苗を植えていきます。
夏
気温の上昇とともに稲が育ってくると、農家は田んぼの管理に忙しくなります。とりわけ水の管理が大切です。
管理と除草
生育期には、雑草を除草したり、病害虫を防いだりする管理も必要になります。
追肥と水抜き
稲の生育状況に応じて、タイミングをみながら肥料を与えたり、生育時期に応じて田んぼに水を入れたり引いたりし、深さを調整する水の管理が大切で、稲の成長を調節するために必要な作業です。
秋
暑い夏が過ぎ、秋の訪れを感じる頃、田んぼには黄金色の稲穂が揺れます。いよいよ「稲刈り」の季節です。
収穫・乾燥
全てに水を抜いて田んぼがしっかり乾いたら、コンバインで刈り取りです。
田植え同様、機械の入らないような狭い田んぼなどは昔のように一株ごとに鎌で刈り取っていましたが、現在はコンバインが大活躍です。
収穫されたお米は、乾燥機に入れて一定の水分なるまで乾燥させ、乾燥されたお米から籾摺り機で籾殻を取り除き、玄米にしていきます。
最後に、このような一連の作業の中でもシーズン通しての草取り、草刈りの作業の労力は全体の約半分を占めているようです。
この他にも水の通路を作る溝きりを行ったり、秋冬の期間には土の準備をしたりお米を作るための手間は多くあります。このように美味しいお米を作ることは、より細かい管理が必要です。
日本の米農家の皆さんが如何に丁寧にお米を作っていらっしゃるかが窺えます。
結詞
米の供給不足は徐々に収束してきた感はありますが、依然として主食である「米」の価格も高騰したままです。
一方、農家の方々は収穫の秋まっ只中で、大忙しです。
黄金色に色づいた稲穂が輝き、風の足跡が描く風景はとても美しく、刈り取った稲が稲木にかけられ、垣根のようにずっと続いている光景は、まさに日本の秋の原風景です。
農家の皆さまのご苦労が実を結び、おいしい新米になりますように祈りたいと思います。
これからどんどん秋が深まり、暦は二十四節気では「寒露(かんろ)」、そして七十二候は寒露の初候「鴻雁来(こうがんきたる)」と移っていきます。
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