
20日より二十四節気は「小満(しょうまん・沖縄ではスーマン)」、そして七十二候は「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」となります。
奄美、沖縄地方は遅れていた梅雨入りもそろそろという感じです。一方で、西日本・東海・関東地方では一足早く夏と感じてしまうような気温の日が続いています。
「梅雨の走り」という言葉がありますが、「走り梅雨」とも言い、本格的な梅雨を目前にしながら、先走るように愚図つく天候のことを指しています。この雨は植物、とりわけ作物ににとっては、大事な雨ともなっています。
そしてもうすぐ収穫の時期を迎える「麦」にとってはラストスパートの時となります。
と同時に農家では田植えの準備が始まる時期でもあります。
小満(しょうまん)

二十四節気の内でも馴染みの薄い「小満」ですが、暦便覧では「万物盈満(えいまん)すれば草木枝葉繁る」とあります。
陽気がよくなり、草木などの生物が次第に生長して生い茂り、木々の葉の色も濃さを増し、一段と生気が満ち始める頃です。
二十四節気「小満」の中での初候は本記事の「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」、次候は26日より「紅花栄(べにはなさかう)」そして31日より末候の「麦秋至(むぎのときいたる)」と進んでいきます。

ということで、小満には、そろそろ収穫期を迎える麦も穂をつけ始めその様子を見た生産者の方々もホッと一息(ちょっと満足)という意味もあるようです。
スーマンボースー(小満芒種)
四季が判然としないと言われている沖縄ですが、「ミーニシ(新北風)」「ニングゥチカジマーイ(二月風回り)」「ウリズン」「若夏(ワカナチ)」や「カーチーベー(夏至風)」等々季節の移ろいを表す言葉はたくさんあります。
この時期、沖縄ではちょうど梅雨の時期となり、二十四節気は小満に続き「芒種(ぼうしゅ・沖縄ではボースー)」と移っていきますが、この二つの二十四節気を合わせて「スーマンボースー(小満芒種)」と言って「梅雨」を言い表しています。または「ウリー(潤う)」とも言われます。

この時期の沖縄の風物詩と言えば、やはり那覇ハーリー・糸満ハーレーではないでしょうか。

その内、那覇ハーリーは「泊」チームが昨年に続き連覇しました。そして6月9日(旧暦5月4日)には糸満ハーレーも開催されます。
市内にある高台の山巓毛(サンティンモウ)で糸満ハーレー到来を告げる鐘が鳴らされる「ハーレー鐘打ち」や白銀堂への御願についても行われます。
その鐘の音は「ハーレー鐘が鳴ると梅雨が明ける」と昔から言われ旧暦の4月27日(2024年は5月3日)に鳴らされます。

しかし、今年の沖縄では梅雨真っ只中もかもしれません。
今年の特徴は、インド洋熱帯域の海面水温が高いことです。インド洋熱帯域の海面水温が高いときには、太平洋高気圧は北への張り出しが強まりにくいとされています。
また、日本の南では太平洋高気圧の西への張り出しが強く、日本付近にはいつも以上に南から暖かく湿った空気が流れ込みやすいので降水量が多くなることが予想されます。依然沖縄の水事情は大きな改善が見られない中、恵みの水となって欲しいものですが、大雨に備え、警戒も怠らないように心がけた方が良いようです。
蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

さて、七十二候も20日より小満の初候「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」となります。産業構造の変化に伴い、昔ほど農家の皆さんが副業として蚕を育てることも少なくなってはいますが、日本の伝統的な産業として、皇室などでも米作りと並んで、しっかりと受け継がれています。
その蚕が餌である桑の葉をたっぷり食べてスクスクと育つのは丁度今の時期です。
ちなみに、皇室では稲作は天皇が、そして養蚕は皇后がその任にあたっています。
皇居内の紅葉山御養蚕所で、この時期「御養蚕始(はじめ)の儀」に臨まれます。
その御養蚕始の儀は、豊作を祈る神事の後、孵化(ふか)したばかりの蚕に初めて桑を与える作業をされます。その後、養蚕作業は約2か月間続きます。
蚕・かいこ
最近、蚕を見たことがないという方も増えてきているようですが、蚕はカイコガという蛾の仲間の幼虫で一般の蛾や蝶のように幼虫からサナギになって羽化して成虫になるというプロセスをたどるのですが、実はとても不思議いっぱいの昆虫なのです。
その一番はその出自というか起源です。なぜならば「蚕」は野生には一切存在しないということです。

その過程にはクワコという現在の蚕の兄弟分のような昆虫から変異したという説や現在でも知られていない未知の昆虫から変異したものとか諸説あり現代科学でも未解明と言っていいのです。
ただハッキリしていることは蚕は、動物で言えば完全に家畜化された生き物で、自力では生きていくことができないという変わり種なのです。
ちなみに蚕を一頭(蚕の数え方は「匹」ではなく動物のように「頭」で数えるそうです)、外の桑畑の木に乗せてあげても桑の葉を探そうともせず飢え死にしてしまうし、一風吹けばつかまり切れずに吹き飛ばされてしまいます。また色が白いため外敵に捕食され、いずれにしても生き残ることができないのです。
そのため、野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜動物で「家蚕(かさん)」とも呼ばれています。
また蛾の姿をした成虫になっても羽根があっても体が羽根に比べて大きく飛ぶための筋肉が退化しているため羽ばたくだけで飛ぶことができず、なんとも情けない(?)昆虫なのです。しかしながら成虫の黒く丸い目や櫛のような触覚、そしてモフモフ感満点の羽毛に覆われた体など最近では秘かなファンが増えているようです。

養蚕の歴史

蚕を飼育し、サナギを包んだ繭から糸を採ることを生業とするのを養蚕といいますが、その歴史は古く5000年以上前から中国で行われていたと推定されています。
日本では弥生時代には中国大陸から伝わりました。
その後日本でも輸出品として一大産業となり明治に入ると現在、世界遺産にも登録されている「富岡製糸場」など殖産興業の柱となっていきました。
現在では安価な化学繊維に押され、その手間からコストパフォーマンスが低下し養蚕農家は減少の一途をたどっていますが、地球温暖化対策のためサスティナブルなファッションが叫ばれる中、最近では見直されてきています。
絹・シルク

蚕の繭から採れる糸は、同じ太さの鋼鉄線より強いと言われています。そんなスーパー繊維の絹について少しお話ししておきます。
絹は肌に優しい?

絹はもちろんタンパク質で出来た天然繊維の上、その成分はお肌の成分に極めて近いアミノ酸が結合した純粋なタンパク質繊維です。
さらに吸放湿性と保温性を兼ね備えているので着心地が良く、夏は涼しく、冬は暖かいオールラウンド繊維です。
さらに絹には紫外線カットの働きもあり、なんとそのカット率は90パーセント前後あると言われています。
絹製品の扱い方
絹の製品は結構高価です。
素材としての素晴らしさでもその価値は十分あるとは思いますが、せっかく懐を少々傷めて買ったものですから大切に着続けたいものです。
絹の最大の弱点は「摩擦に弱い」ということです。
そこで洗濯には注意が必要です。
基本的には無精せずに手洗いをすことです。
注意点
・30℃前後のぬるま湯で洗う
・中性洗剤を使う
・ゴシゴシと洗わず、汚れを振り落とすように押し洗い
・強く絞らない
・そのまま陰干し
こんなことを注意するだけで長持ちするそうです。
結詞
依然として続く一般市民を巻き込んだ、ロシアのウクライナへの侵略、イスラエルのガザ地区への侵攻。国内に目を向ければ、円安などによる物価高騰で、実質賃金の目減り状態。
まるで梅雨空のような憂鬱な世情です。

そのような世情の中にあっても、宇宙や地球は大きな動きを続けています。鬱陶しい空でもたまには見上げて、その偉大なる動きに思いを馳せてみるのもいいかもしれません。

次回は小満の次候「紅花栄(べにはなさかう)」をお伝えします。
コメント