霜止出苗|しもやみてなえいづる|2023年|夏はきぬ|山吹

歳時記
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霜止出苗 しもやみてなえいずる

春もそろそろ終わりに近づき季節は梅雨を経て夏へと向かっていきます。
暦は穀雨の次候「霜止出苗(しもやみてなえいづ(ず)る」を迎えます。

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霜止出苗(しもやみてなえいづ(ず)る)

2023年は25日より穀雨の次候「霜止出苗(しもやみてなえいづる)」と移ります。
田畑の作物にしっとりとした雨が降り注ぎ大地を潤し苗の生育を促す頃となります。
米農家の方々は田植えの準備に忙しい日々を送っています。
山野の木々も芽吹いた若葉が爽やかな緑色となって人々の心を癒してくれ、また、この季節に咲く花を「苗代花(なわしろばな)」と呼び、卯の花(ウツギ・空木)ツツジ(躑躅)やまぶき(山吹)などの淡く優しい色や明るく鮮やかな色の花が野山に咲きほこり、豊かな色彩で心を解してくれます。

ちなみにこの第17候も10月下旬の霜降の初候「霜始降(しも はじめてふる)」と対をなしている七十二候です。

稲・米

最近では食の欧米化でお米の需要は減ってきていますが、それでもやはり日本の主食と言えば、とうもろこしや小麦と並ぶ世界三大穀物の一つ「米」ではないでしょうか。
籾(もみ・稲の実)は収穫期に刈り取られ、玄米と籾殻に分けられます。
そして、玄米から米ぬかをとったものが白米で、私たちがいつも口にしているご飯です。
前の年に収穫された籾の内、次の年のためにとっておいたものを種籾と言います。

我が国の米作の歴史は諸説ありますが、遠い昔、稲は水辺に自生していた植物で、それを採取して食料の一つとしていました。
縄文時代の終わりごろには、採取したイネの一部を残し、家の近くに蒔いて(直蒔きをして)収穫するようになりました。
狩猟・採取が食を得るための手段としていた人間にとって安定的に食を確保できる食を得たことにより住居を移転することなく定住するようになったという一大革命も起こりました。さらには稲作が日本の気候風土に適していたこともあって邪馬台国の時代にはすっかり主食として定着していたようです。

そして弥生時代にはまだ直まきではあるものの畦で区切られた水田にての栽培も始まっていたようです。

時代は進み奈良時代には苗を別のところ(苗代)で育てた後、稗(ひえ)などを抜ききれいになった水田に改めて植える栽培法も開発され収量は増えていきました。

近代に入り、育苗器で苗を育てるなど更なる技術革新や農機具・機械の開発によって生産量は飛躍的に伸びていきます。

夏は来ぬ

「卯の花の匂う垣根に~」と歌いだす唱歌「夏は来ぬ」はご存じの方も多いと思います。
この歌い出しの「卯の花」は「空木(うつぎ)」の花を指しています。

歌詞全文(佐々木信綱 作)

卯の花の 匂う垣根に
時鳥(ホトトギス) 早も来鳴きて
忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ

さみだれの そそぐ山田に
早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして
玉苗(たまなえ)植うる 夏は来ぬ

橘(タチバナ)の 薫る軒端(のきば)の
窓近く 蛍飛びかい
おこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ

楝(おうち)ちる 川べの宿の
門(かど)遠く 水鶏(クイナ)声して
夕月すずしき 夏は来ぬ

五月(さつき)やみ 蛍飛びかい
水鶏(クイナ)鳴き 卯の花咲きて
早苗(さなえ)植えわたす 夏は来ぬ

卯の花 空木 うつぎ

ウツギはアジサイ科の落葉低木で空木の名の由来は茎が中空であることからその名がつけられています。
また旧暦4月を「卯月」と言いますが、この「卯」は正しく「卯の花が咲くころ」の「卯」なのです。
実際白い花が咲くのはもう少し後で5月から7月にかけてが花期です。
歌詞にある香りですが、実は沈丁花のような強い芳香は残念ながらありません。
ここで言う「匂う」は香りがするというより空木の花が咲き乱れる様子を表していると解釈した方が良いようです。

ちなみに豆腐の「おから」を卯の花と呼びますが、これも日本人の「言霊思想」から「おから」は空っぽに通じることから「卯の花」と呼ばれるようになったという説もあります。

おから 卯の花

玉苗

玉苗 稲 苗

二番の歌詞に
「五月雨の そそぐ山田に 早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして 玉苗(たまなえ)植うる 夏は来ぬ」とありますが、この「玉苗」を育てる時期が「霜止出苗」の頃合いです。

良いお米を作り育てるためには本田に植え替える前の苗の時期の育て方がとても大切だそうで、農家の方々は肥料だけではなく丁寧に生育温度管理もして、まるで乳幼児期の子育てのように大事に育てるようです。
このように手塩にかけて育てた苗のことを「玉苗」と言うそうです。

山吹(やまぶき)

この時期の植物の話をもうひとつ。
冒頭にも書きました山吹(やまぶき)は、日本では北海道南部、本州、四国、九州に分布する落葉広葉樹の低木です。花期は4月から5月で3センチ前後の黄色の花を咲かせます。
その黄色は鮮やかで、日本の伝統色の「山吹色」というオレンジ色と黄色の中間色の色名にもなっています。

山吹色

さて山吹と言えば、後に江戸城を築城した太田道灌の逸話を思い浮かべる方も多いと思います。その逸話は次のようなものです。

『道灌が父を訪ねて越生(現・埼玉県越生町)の地に来た時、突然のにわか雨に見舞われ、農家で蓑を借りようと立ち寄りました。
その折、農家より娘が出てきて一輪の山吹の花を差し出したそうです。
道灌は、蓑を借りようとしたのに花を出され内心腹立たしい思いをしましたが、後でこの話を家臣にしたところ、それは『後拾遺和歌集』の「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき」の兼明親王の歌に掛けて、山間(やまあい)の茅葺き(かやぶき)の家であり貧しく蓑(実の)ひとつ持ち合わせがないことを奥ゆかしく答えたのだと教りました。』

その後道灌は、古歌を知らなかった事を恥じて、それ以後、歌道に励み、歌人としても名高くなったといわれています。

ちなみに山吹には実がつかないと思われがちでですが、実は山吹には一重と八重の2種があり、一重の基本種には立派に実がつきます
八重山吹の場合は雌しべが退化し、実を結ぶことがありません
日本で昔から栽培されてきた山吹の多くが実をつけない八重咲き種であったため、山吹は実をつけないと言われるようになりました。
また「山吹」春の季語ともなっています。

結詞

大手旅行会社によると、今年のゴールデンウイークに旅行を計画されている方は、国内旅行については、旅行者数が前年比153.1%の2450万人との予測、また海外旅行については、旅行者数が前年比400%の20万人(2019年比21.5%)と予想しています。
緑を増してきた木々をを愛でたり、爽やかさが増している風を感じたりしながら、少しでものコロナ禍で溜まったストレスを和らげてみてもいいかもしれません。

牡丹華 ぼたんはなさく

次回は穀雨の末候「牡丹華(ぼたんはなさく)」そして雑節の八十八夜をお伝えしていきます。

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