
徐々に冬らしさも感じ始めましたが、七十二候は、立冬の末候「金盞香(きんせんかさく)」となります。
金盞香(きんせんかさく)
さて、この「金盞香」のきんせんかは「水仙を指す」という説や「正しく金盞花(キンセンカ)を指す」など諸説あり七十二候解釈の論争の一つとなっています。
一般的に言われているのはキク科のキンセンカではなく「水仙」を指すという解釈が多いようですが、水仙(ニホンスイセン)、金盞花(ホンキンセンカ)の両方をご紹介して参ります。
また金盞香は「きんせんかさく」と読んでいますが、「きんせんこう(香)ばし」と読まれている方もおられます。
太陽暦に替わった現代社会では現代流の季節感からか古人の解釈を的確に判別するのは難しいものです。
水仙(ニホンスイセン)

水仙は別名「雪中花」「金盞銀台(きんせんぎんだい)」とも言われ寒さの中に健気に咲くその姿は「春の訪れ」を予感させ、冬の枯れ山の中で咲くとして縁起物とされ、お正月の床の間の生け花に彩りを添えるものとして用いられることも多いようです。
水仙の花は、その特徴として中心にある筒状の部分があります。
副花冠(ふくかかん)といってこれが金の盞(盃)に見え、外側の白い部分が銀台に見立てることによって前述の「金盞銀台」という別名が生まれたものと思われます。
その銀台に見立てられた白い花びらのように見える部分は6枚あり外側3枚は萼(がく)で、内側3枚のみが花弁だそうです。二つをあわせて花被片(かひへん)と呼びます。
ところで仄かで上品な香りを放つ水仙ですが、実は有毒植物で誤って食べてしまうと食中毒症状を引き起こします。
強い吐き気を伴うためその大部分が吐き出され死に至るような重篤な症状には稀にしか至らないようですが、死亡例もあり危険なことには変わり在りませんのでくれぐれもニラと似ているからなぞといって食べたりなさらないようにご注意ください。
また老婆心ながら、家庭菜園をされている方は用心のためニラやあさつきなどと並べて植えないようにしてください。
水仙とギリシャ神話

水仙の学名「Narcissus(ナルキッソス)」は、そのギリシャ神話からの命名です。
スイセンの花言葉は「うぬぼれ・自己愛」などネガティブなものが多いのですが、ギリシア神話に出てくる美少年ナルキッソスの最後の哀れな姿に関係しています。
そのギリシア神話のお話しというのは、
『ナルキッソスは、様々な女性に言い寄られる程、非常に美しい青年でした。しかし、彼は女性たちに対し、高慢な態度をとっては傷つけ、その行いを見かねた女神は、ナルキッソス自身に恋をしてしまう呪いを彼にかけてしまいます。そんなこととは露知らずに湖に出かけたナルキッソスは、呪い通りに水面に映った自分に恋をしてしまいます。自分自身に恋こがれた結果、水面から離れられなくなり、泉に映った自分見続けているうちに1本の花になってしまい、そこで生涯を終えました。その後、彼がいた水辺にはうつむいたような姿のスイセンが咲いていました。』
ナルキッソスは己愛(ナルシスト)の語源とも言われています。
九州の主な水仙の名所
長崎県・野母崎
福岡県・能古島
佐賀県・風の見える丘公園
熊本県・遠見山すいせん公園
大分県・関崎海星館
鹿児島県・吉野公園
金盞花(キンセンカ)

昨今ではキンセンカ=マリーゴールドの印象が強いですが、ここではもうひとつの説の金盞花(ホンキンセンカ)をご紹介します。
この花は中近東原産の植物で中国を経て伝来したもので一般的に「キンセンカ」または学名を音読みした「カレンデュラ」の名で流通しています。
花が金色で盞の形が和名の由来となっています。
渡来した品種は二つあって、ホンキンセンカとトウキンセンカです。その内七十二候で言われる花は「ホンキンセンカ」を指しているのだそうです。
当初、先駆けて渡ってきた可憐で寒さに強いホンキンセンカは冬知らず)とも呼ばれ、よく育てられていたのですが、江戸後期ごろになると、花が大きなトウキンセンカが盛んに作られるようになり、濃い橙色のあざやかさがうけたのか、地味な方のホンキンセンカは次第に忘れられていったようです。
結詞
自然の厳しさのなか、気高く咲く水仙。その香りが心に沁みる花の季節が今年もやってきます。

新型コロナウィルス禍の中、その終息を願う気持ちと水仙から春をイメージさせる気持ちとでお近くの水仙観賞にお出かけになってみたらいかがでしょうか。

朝晩の冷え込みもだいぶ増してきましたが、暦は二十四節気は「小雪(しょうせつ)」そして七十二候は小雪の初候「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」へと進んでいきます。
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