初夏の風物詩「蛍観賞」・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)

腐草為蛍 くされたるくさほたるとなる 歳時記
腐草為蛍 くされたるくさほたるとなる

里山の水辺などには淡い光を放ちながら、蛍が乱舞する季節となりました。七十二候は芒種の次候「腐草為蛍くされたるくさほたるとなる)と移ってきます。また、暦の上では雑節のひとつ「入梅にゅうばい)」となり、全国的に梅雨入りのシーズンを迎えます。

腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)

昔の人には、暑さに蒸れて腐った草が、蛍になると信じられていたそうです。実際にそんなことはあり得ませんが、暑さに蒸れて腐りかけた草の中から、まるでその草が変わったかの如く蛍(ほたる)が舞い出て、暗闇に幻想的な光を放ち始める頃がやってきました。

静かな暗闇に蛍がゆらゆらと美しく舞い、そのはかなく淡い光を放つ光景は、まさしく日本の初夏を彩る風物詩となっています。

その蛍が放つ淡い光は「蛍火」とも呼ばれ、夏の季語ともなっています。

蛍 ほたる ホタル 火垂

日本には30~40種の蛍がいるそうですが、有名どころとしては「ゲンジボタル」「ヘイケボタル」でしょう。

南国沖縄にもたくさんの種類の蛍がいますが、

オキナワスジボタルクロイワボタルや島の名前が冠されたクメジマボタルなどが光を放ち始めます。

蛍の名前の由来は諸説ありますが、「火垂」や「火照」が語源だとする説が有力のようです。

蛍提灯・ホタルブクロ

坂本冬美さんの歌で「蛍の提灯」という歌がありますが、実際に墓参り子供の遊びなどで存在したものです。

一口に「蛍の提灯」といっても、一般的な提灯のようなものもあれば、花や実(実際には総苞)などを用いたものまで様々です。

現在でも山梨ではお盆のころには「蛍提灯」が売られているそうです。提灯と言っても提灯の中は蝋燭ではなく、蛍を入れてその明かりを頼りに墓参りをします。お盆にお迎えする祖先の霊は蛍に化けていると言われ、お盆の終わりにお送りする祖先の霊をお墓参りが終わった後に、空に放ちあの世にお帰りいただくということです。どこか日本的なみやびと共に哀愁を感じてしまうのは私だけでしょうか。

さらに皆さんはホタルブクロという植物をご存じでしょうか。

ホタルブクロ 蛍袋 火垂袋

ホタルブクロはキキョウ科の多年草で、この花の中に蛍を入れて遊んだことからその名がついたということも名前の由来の一つとなっています。(火・灯を入れて運ぶ提灯の原型の火垂ににていることからきているという説もあります)

実際に夜、数匹の蛍を入れてこの花を見たら、さぞ幻想的な光景が目の前に広がることでしょう。

さて沖縄でも、蛍は昔から子供たちの恰好の遊び相手でした。

子供と蛍

沖縄では蛍のことをジーナーとかジンジンというところが多いのですが、サツマイモを練り窪みをつけた平たい団子状にしたものに蛍を乗せてその放つ光を楽しんだり、宮古島や石垣島の方ではテリハボクの種子やハスノハギリの総苞を使って蛍の提灯を作って遊んでいたそうです。

蛍の光・別れのワルツ

蛍と言えば「蛍の光」でしょう。

この蛍の光、小学唱歌などに採用されているので日本の歌かと思ったら、実はスコットランド民謡の「オールド・ラング・サイン」という歌がその原曲です。

その日本版「オールド・ラング・サイン」は最初に「告別行進曲」もしくは「ロングサイン」という題で、日本帝国海軍の兵学校や機関学校等の卒業式典曲として使われました。その後士官や特に戦功のある下士官等が、艦艇や航空隊等から離任する時にも歌われたり、演奏されたりしたのが始まりだといわれています。

蛍の光

そして公共施設や商業施設などの閉館、閉店の際にもこのメロディーが流されているところが多いのですが、これは「別れのワルツ」といって「オールド・ラング・サイン」を3拍子のワルツに編曲したものです。なんとその編曲者は現在放映されているNHK連続テレビ小説「エール」の主人公の古関裕而さんがその名をモジった「ユージン・コスマン」という名前で発売されたものです。

「別れのワルツ」は1940年にアメリカで放映された「哀愁」という映画でビビアン・リーとロバート・テーラーがキャンドルナイトクラブでダンスをした時にバックで流れていたのが3拍子のワルツ版「オールド・ラング・サイン」の初出です。映画もそのメロディは日本でも印象深いものであったのでレコード会社が古関裕而さんに採譜、編曲を依頼したというのが顛末です。

入梅(にゅうばい)

2020年は6月10日は「入梅」という雑節です。

二十四節気や五節句などの暦日のほかに、季節の移り変りをより適確に掴むために設けられた、特別な暦日の雑節(ざっせつ)の中に「入梅」というのがあります。

節分や彼岸、土用などもこの雑節の一つです。

入梅は読んで字のごとく「梅雨」に入ること(地域によっては梅雨の期間全体呼ぶこともあります)を言います。

農作物の初期の生育時期としてこの時期の雨はとても重要な要素なので、雑節として農家にとってはとても大切な時節なのです。

とは言え日本列島は南北に長いため実際の梅雨入りの時期は地域によってだいぶ差異があります。5月の内に梅雨入りした沖縄、奄美地方などはこの時期は逆に「もうすぐ梅雨明け」の季節となります。

結詞

今回取り上げた蛍は、幼虫の時は肉食性であり、ゲンジボタルなどは主に清流にしかいないと言われるカワニナを成虫になるまでにかなりの数の食べるそうです。

成虫になった時には、以前お話しした蚕のように口器が退化してしまっているため、何も食べず、夜露から水分のみを摂りながら、幼虫の時に蓄えた栄養素だけで生きて、子孫を残すことのみに専念します。

こちらも哀れなような儚い命を全うしています。そんなことを思い浮かべてあの蛍火を眺めるとまた違った感情が湧き出してくるかもしれません。

梅子黄 うめのみきばむ

次回はいよいよ全国的に梅雨の鬱陶しい陽気となるかもしれない芒種の末候「梅子黄(うめのみきばむ)」を取り上げたいと思います。

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