新型コロナウィルス感染拡大の中でも暦は粛々と進んでいきます。
19日より二十四節気は「穀雨(こくう)」、七十二候は「葭始生(あしはじめてしょうず)」となります。

穀雨(こくう)

春の雨が降り注ぎ多くの作物が潤う頃という意味です。そしてこの穀雨が終わる頃(5月1日)には八十八夜を迎えます。
度々登場する「暦便覧」ですが、太玄斎こと常陸の国の宍戸藩第5代藩主松平頼救が天明7年に世に送り出した暦の解説書で、その「暦便覧」には穀雨について「春雨降りて百穀生化すればなり」と記されています。
この季節に降る雨を百穀春雨または春雨百穀といって穀物の生育には欠かせないものです。
そのためこの雨を契機として種まきに最適な時期の目安としてきました。
春雨
この時期に降る春雨は作物に恵みの雨となり「穀雨」と呼ばれましたが、他にも様々な呼び名をつけていました。

- 甘雨(かんう)
植物を潤す雨という意味ですが、甘いという言葉を使うところに、お釈迦様の生誕を祝う花まつりで誕生仏におかけする甘茶を連想してしまうのは私だけでしょうか。
- 催花雨(さいかう)
さぁ春ですよ!と花達に開花を促している雨。ちなみにツツジ、ボケやシャクナゲなど鮮やかな紅色の花に降り注ぐため「紅の雨」と言うこともあります。
- 春霖(しゅんりん)
春の長雨のことを言います。また「沃霖(よくりん)」と呼ぶ場合もあります。
- 瑞雨(ずいう)
穀物の生育を促す雨のことで、穀雨と同じ意味です。この「瑞」という漢字は天が善政に感じてくだす、めでたい印。またはめでたいことそのものを指しています。さらに「沃雨(よくう)」「膏雨(こうう)」などの呼び方もあります。
- 菜種梅雨(なたねづゆ)
菜の花が咲くころにしとしとと降る雨を言いますが、昨今では地球温暖化の影響かこの時期より少し早く菜の花は咲いてしまいますね。
- 迎え梅雨(むかえづゆ)
まだ本格的な梅雨の時期より前ですが、まるで梅雨のような天候を指して言います。沖縄では来週後半には前線が停滞して、正しく迎え梅雨の天気となりそうです。
今更ながら日本語の表現の多様さ豊かさには頭が下がります。
しかしながら、現代ではだいぶその日本語が乱れているように感じるのは私だけでしょうか。
時代とともにその言語も変遷していくのもやむを得ないことかもしれませんが、そんな中でも美しい日本語は大切にしていきたいと思いますね。
葭始生(あしはじめてしょうず)
4月19日に七十二候は「穀雨」の初候「葭始生(あしはじめてしょうず)」と変わります。

気温も徐々に上がり始め様々な植物が活き活きとし始めます。
それは野山に限らず身近な水辺にもその様が見られます。
葭
水辺に目を向けると葭の新鮮な緑の若芽が芽吹いているのが見られます。
葭はイネ科の多年草で川や沼、湖の水辺や湿地などに背の高い群落を作ります。
葭は「葦」「蘆」とも書きますが、その茎は竹などと同じように中が空洞になって柔軟性があり丈夫な割には軽量ということもあり茅葺の屋根材としても利用されています。

また葭を使った簾は「葦簀(よしず)」と呼ばれ皆さんにもお馴染みのアイテムでしょう。
その風情はビニール製の簾など足元にも及ばないと思います。

「あし」と「よし」
さて先ほど葭で出来た簾を「葦簀」と書きましたが、もちろん素材は「葭」です。
では「あし」と「よし」は別物でしょうか。
いえいえ、まったく同じものです。
日本には言霊を大切にする民族ですので、その「言霊思想」の中に「忌み言葉」という考え方があります。
例えば梨を「有りの実」、披露宴や祝宴の終わりを「お開き」さらには「すり鉢」を「あたり鉢」など縁起が悪い言葉を使うことを避ける風習があります。
この葭(あし)も「悪し」に通じることから「良し・善し」と言い換えていたのです。
ただ関西地方では「お金」を意味する「お足し」に通じることから、根強く「アシ」という言い方も残っています。
結詞
ついに新型コロナウィルス感染拡大のため日本全国47都道府県に「緊急事態宣言」が発出されてしまいました。

現在の感染状況から言ってやむを得ないことかもしれません。
しかしながらこんな時期だからこそ言霊思想に現れているような日本人の「穏やかで豊かな心根」を忘れずに日々過ごしていきたいものですね。
そして来年のこの時季にこの記事を読み返した時、去年はこんな状態だったのだなぁと微笑みとともに思い出せることを祈り、今は感染拡大防止のため、自らの行動を自制しつつ日々を送りましょう。
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