私・徒然草

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古希を迎える年齢が近づいた今になって、ふと、自分は「書くこと」が好きなのではないかと思うようになりました。

これまでにも姉妹コンテンツを含め、さまざまな文章を書いてきました。
いずれも、読んでくださる方に少しでも役立てばという思いを第一に、できるだけ冷静に、客観的に綴ってきたつもりです。

しかし振り返ってみると、そこには「自分」というものがあまり存在していなかったようにも思います。
もちろん、文章には書き手の人柄が滲むものなのでしょうが、少なくとも私は、自分の感情や迷い、弱さや揺らぎをできるだけ抑え、無機質な文章を書くことをどこかで良しとしてきました。

けれど七十年近く生きてきた今、ようやく思うのです。
役に立つことだけではなく、「自分が何を感じているのか」を書いてみてもよいのではないかと。

そこで、もう少し自分を曝け出し、人文本位の文章を綴ってみたくなり、「私・徒然草」と題した新たなコンテンツを始めてみようと思い立ちました。

手本となったのは、もちろん徒然草です。

第一段で兼好法師は、「つれづれなるままに」、つまり特に目的もなく、心に浮かんだとりとめのないことを書き連ねているだけだと言います。
そして、その行為を自ら「あやしうこそものぐるほしけれ」と評しています。

私はこの一文に、随筆というものの本質があるような気がしています。

一般に文章を書く以上、そこには主張や結論、あるいは誰かの役に立つ意味が求められます。
読む側もまた、「何が言いたいのか」「どんな価値があるのか」を自然と探します。

しかし兼好法師は、そうした目的性から最初に降りてしまっています。
意味があるかどうか分からないことを、ただ書く。
整った論でもなく、完成された意見でもなく、その時々に心に浮かんだ断片を書き留めていく。

それはある意味、とても危うい行為です。
理性的でも、効率的でもありません。
他人から見れば、意味のない独り言のようにも映るでしょう。

だからこそ兼好は、それを「ものぐるほし」と表現したのではないでしょうか。

けれど私は、この「ものぐるほしさ」を否定すべきものだとは思いません。
むしろ、人が本音や内面を言葉にしようとするとき、理性や社会性から少し外れてしまう瞬間は避けられないのだと思います。

考えてみれば、七十年近く生きてきた今でも、自分の感情をうまく整理できないことがあります。
なぜこんなことで心が動くのか。
なぜ昔の記憶が急によみがえるのか。
なぜ年齢を重ねても、寂しさや不安や焦りが完全には消えないのか。

若い頃には、「歳を取れば人はもっと完成される」とどこかで思っていました。
しかし実際には、歳月は人を立派に完成させるというより、自分の未完成さを静かに受け入れさせていくものなのかもしれません。

だから今、私は「整理された答え」よりも、「整理しきれない感情」のほうを書き残したいと思うようになりました。

現代では、SNS(ソーシャルネットワークサービス)やブログ、日記、エッセーなど、日々膨大な文章が発信されています。
そこでは常に、「共感されるか」「評価されるか」「役に立つか」が意識されます。
『いいね』の数や反応の多さが、文章の価値のように扱われる場面も少なくありません。

私自身も長く、「読む人のためになる文章を書かなければ」と考えてきました。
もちろん、その姿勢自体は決して間違っていないと思います。
しかし一方で、人は本来、もっと曖昧で、とりとめのない存在でもあります。

意味があるか分からない感情。
言葉にしきれない違和感。
理由のない懐かしさ。
そうしたものを抱えながら、人は生きています。

徒然草 第一段は、「意味のある意見を書く前に、意味の分からない感情を書いてもよいのだ」と教えてくれているように思えます。

兼好法師は、おそらく評価されることを前提に書いてはいなかったのでしょう。
ただ、心に浮かんでしまうから書く。
書かずにはいられないから書く。

それは、ある意味では少し危うく、未完成で、非合理な行為です。
しかし私は、その非合理さの中にこそ、人間らしさが宿っているように感じます。

七百年を経た今でも徒然草 が読み継がれているのは、そこに「うまく生きよう」とする人間ではなく、「どうにも割り切れずに生きている人間」が描かれているからなのかもしれません。

古希を迎えようとする今、私はこれからも、好奇心や感動する心を大切にしながら、自分自身の感性で書き残していきたいと思っています。

役に立つかどうかは分かりません。
意味があるのかも分かりません。
けれど、心に浮かんでしまったことを、そのまま書いてみたいのです。

つれづれなるまゝに、日くらし、硯(すずり)にむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

~吉田兼好著 『徒然草』より~

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