
今日7月24日は「河童忌 我鬼忌 龍之介忌」です。
1927年(昭和2年)のこの日、大正時代を代表する小説家の芥川龍之介が、現在の東京都北区田端の自宅で致死量に達する多量の睡眠薬を飲んで自殺しました。(享年35歳)
代表作の『河童』から、「河童忌」と名付けられました。
龍之介が生前に好んで河童の絵を描き、また短編小説『河童』があることに因んでいますが、その他に、号(文士が書画を創作発表する際に使用)の「澄江堂主人(ちょうこうどうしゅじん)」に由来して「澄江堂忌」や、俳号の「我鬼(がき)」に由来して「我鬼忌」とも呼ばれることもあります。
当初は、遺族と生前親交のあった文学者たちが集まる法要でしたが、1930年(昭和5年)の四回忌から「河童忌記念帖」として文藝春秋誌上で紹介され、この呼び名が定着しました。
以後十七回忌まで毎年行われていましたが、戦争のため中断、戦後、再開されましたが詳しい記録は残っていません。
その後、1976年(昭和51年)の五十回忌は巣鴨の慈眼寺で墓前祭、丸の内の東京会館で偲ぶ会が催されました。
この日は第75回芥川賞の贈呈式で、受賞した村上龍も花を手向けにきました。
そして、没後90年にあたる2017年(平成29年)からは田端文士村記念館が世話役となり、「河童忌」イベントを開催しています。
芥川龍之介について
芥川龍之介は、1892年(明治25年)3月1日、東京市京橋区入船町(現:東京都中央区明石町)に父・新原敏三、母・フクの長男として生まれました。
家は牛乳製造販売業を営んでいましたが、母が精神を病み、龍之介は母の実家芥川家に預けられました。
11歳の時に母が亡くなると、芥川家の養子となりました。
芥川家は江戸時代、代々徳川家に仕えた奥坊主(おくぼうず:職名の一つ。江戸城内の茶室を管理し、将軍や大名・諸役人に茶の接待をした坊主)の家で、家中が芸術・演芸を愛し、江戸の文人的趣味が残り、早くから文芸への関心を持つようになりました。
ちなみに龍之介の長男は俳優であり演出家の芥川比呂志、三男は作曲家の芥川也寸志です。
さて、龍之介本人は1913年(大正2年)、東京帝国大学(現:東京大学)英文科へ進学。
在学中の1914年(大正3年)に菊池寛、久米正雄らと文芸雑誌・第三次『新思潮(しんしちょう)』を創刊すしました。
1915年(大正4年)、代表作の一つとなる短編小説『羅生門(らしょうもん)』を『帝国文学』に発表。
1916年(大正5年)、第四次『新思潮』の創刊号に短編小説『鼻(はな)』を発表し、師事していた夏目漱石にその才能を認められます。
その他の作品に、児童向け短編小説『蜘蛛の糸(くものいと)』のほか、短編小説『藪の中』、『歯車』、『或阿呆の一生』、随筆『西方の人』(1927年)などがあります。
龍之介の死の8年後、1935年(昭和10年)に前出の親友で文藝春秋社主の菊池寛が、芥川の名を冠した新人文学賞「芥川龍之介賞」(通称:芥川賞)を設立しました。
芥川賞は直木賞と共に日本で最も有名な文学賞として現在まで続いているのはご存じのことでしょう。。
そして、1927年(昭和2年)、河童忌の名の由来となった、短編小説『河童(かっぱ)』を発表。
河童の世界を描くことで人間社会を痛烈に風刺・批判し、当時の人々に問題を提起しました。
小説 カッパ
小説 『河童』(かっぱ)は、芥川龍之介が晩年に総合雑誌『改造』誌上に発表した小説です。
当時の日本社会、あるいは人間社会を痛烈に風刺、批判した小説であり、同じ年の芥川の自殺の動機を考える上でも重要な作品の一つでもあるといえるでしょう。
あらすじ
物語は、主人公の、ある精神病患者の第二十三号が誰にでも話すという話を語ったものであるとして進められます。
ある日、彼は穂高山に登山をしに行くことになります。
その途中で彼は河童に出会い、河童を追いかけているうちに河童の国に迷い込んでしまいます。
そこは、すべてが人間社会と逆で、雌の河童が雄を追いかけ、出産時には、胎児は事前に河童の生活について知らされ、胎児に産まれたいかどうかを問い、胎児が生まれたくないと答えれば即時に中絶が合法的になされる世界でした。
悪遺伝を撲滅するために、健全な河童に対して不健全な河童と結婚することが奨励される徹底ぶりでした。
資本主義者のゲエルは新機械の発明で職工が次々解雇されるが、ストライキや社会問題が起きない理由として『職工屠殺法』を挙げ、ガスで安楽死させられた河童の肉を食用にすると言い放ち、唖然とする主人公に、「あなたの母国でも第4階級(最貧層)の女性が売春を余儀なくさせられているのだから、食用を厭うのは感傷主義」と言い放ち、河童の肉で作られたサンドウィッチを差し出します。
他にも哲学者や詩人とも交流し、人間の世界に戻った主人公は、河童を人間より「清潔な存在」と振り返り懐かしみ、対人恐怖が一層激化することになりました。
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